がん末期の身内のケアをしている叔母と電話で長話。
「こんなこと人には言えないけどさ」
そんな枕言葉と共に、何度もこぼれ出る本音。いたわりの言葉への違和感や不満。励ましが重たく感じられる心の内。周囲の優しさがありがたいことは、頭ではわかっている。でも、どうしても気持ちがついていかない──
そんな心の葛藤や苦しさを、正直に吐露できる相手を求めているのだなと感じました。

すれ違うやさしさの行方
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その言葉に、ふと重なったのは──子どもが乳幼児だった頃の記憶でした。
「大変だと思うけど、今が一番かわいい時期だから、楽しんで」
あの頃、そんな声かけがつらく感じられる時期がありました。
今では、子どもも小学生。
「あの頃、もっと一緒に楽しめたらよかったな」
と笑って振り返れるようになりましたが──
あのときの私には、時間にも気持ちにも余白がなく目の前の毎日をこなすだけで精一杯。現実を前向きに捉え直す余力は、ありませんでした。
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言葉が届くとき、届かないとき
似たような経験を経て、乗り越えた人の言葉は、本来なら支えになるものかもしれません。
でも、心も体もすり減っているときに届く、ポジティブな言葉は素直に受け取れない自分への重しとなってしまうことがあります。かえってその言葉が弱った気持ちに重くのしかかり、気づけば、逃げ場のない孤独に追い込まれていく──
そんな感覚を味わった古い記憶が蘇ってきました。
わかってはいても、そう思えないことがある。
前を向けないつらさを、「無いこと」にしないでほしい。
そうした思いを抱えている人が、安心してありままの気持ちを受け止めてもらえるような場が、もっとあってもいいのではないかと感じています。
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第14話 終わりに向かう時間のなかで──今できることを手渡す