きっかけは、父の何気ないひとことでした。
「そういえば、お母さん、昔“Mちゃん”っていう親友と一緒に働いていて、何年か前に連絡先がわかったって、うれしそうに話していたなぁ」
父が思い出したのは、母が独身の頃に、住み込みで働いていた職場で出会った親友の存在。ともに過ごした5年間は、母にとってかけがえのない“青春”だったようです。
記憶をつなぐ、もうひとつの“ケア”
50年以上ものあいだ連絡が途絶えていたものの、数年前に偶然、連絡先が判明したとのこと。母の連絡帳に残っていた氏名と電話番号を頼りに、勇気を出して電話をかけてみると──
「すぐにでも会いに行って、抱きしめたい!」
そう弾む声で応えてくれたのは、81歳になった親友でした。その言葉をきっかけに、私たち家族の中で、“会いたい人に会わせる”という選択肢が動き出しました。

とはいえ、病院までは新幹線で片道3時間を超える道のり。親友の体調や安全を第一に考え、私たち娘同士が連絡を取り合い、ご家族が同行するかたちで「再会の日」を整えました。
せっかくの機会だからと、実家に保管してあった当時のモノクロ写真が貼られたアルバムを準備。サイズが小さく見づらい一部の写真はスキャンし、タブレットに収めました。
面会時間は30分ほどと限られていますが、60年の時を越えて交わされる“言葉”と“笑顔”が、母の心をそっと照らしてくれることを願っています。

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第6話 希望を選び取る力──訪問看護師が教えてくれたこと