女性活躍を掲げていても、実際には“女性特有の健康課題”がキャリア継続の壁になっているケースが少なくありません。
月経痛、更年期、不妊治療など、いずれもデリケートな課題であるがゆえに、制度があっても「言い出しづらい」「使いづらい」と感じる女性は多く存在します。
こうした背景を受けて、経済産業省の委託事業として作成されたのが『健康経営における女性の健康課題に対する取組事例集2025』です。この一冊には、企業規模を問わず現場で生まれた数々の実践事例が掲載されています。
今回はキャリアコンサルタントの視点から、人事・経営層の皆様に特に注目いただきたい事例を紹介します。
■ 支援は“特別扱い”ではなく、“活躍の土台づくり”
まずご紹介したいのが、制度を“使える”文化の醸成に注力した大企業の取組です。
▶ パナソニック コネクト
筋電気刺激を用いた「生理痛の疑似体験会」を、経営層も含めて全社的に実施。
参加者のディスカッションを通じて、「痛み」や「職場でできる配慮」を考える時間が設けられました。
結果として、
- 男性社員の理解が進み
- 女性用トイレに生理用品が設置されるなど、職場環境が具体的に改善
- 各種メディアで取り上げられ、企業姿勢が社内外に可視化される
といった成果が生まれました。
私自身も以前、生理痛の疑似体験会に参加したことがあり、「共感することの力」を強く実感しました。
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▶ ジョンソン・エンド・ジョンソン
「不妊治療と仕事の両立」などをテーマに、上司と部下の会話トレーニングを導入。評価者としての役割を一度脇に置き、“チームメンバーと向き合う”対話力の育成に取り組みました。
その結果、管理職の97.5%が「対話姿勢の理解が深まった」と回答。
支援の本質は、“制度の周知”だけでなく、“使える雰囲気づくり”にあります。

■ 中小企業だからこそ光る、実践的な工夫と継続性
大企業だけでなく、中小企業でも現場に根ざした実践が力を発揮しています。
▶ 浅野製版所(広告制作/従業員38名)
近隣で開催される無料の市民講座に社員を業務時間内で参加させ、学んだ内容を社内SNSで共有。コストをかけずに知見を広げる仕組みとして好評を得ました。
▶ メディプライム(医療関連/従業員6名)
社員主導で“女性の健康推進チーム”を立ち上げ。アンケートによる実態把握から制度運用提案までを一貫して現場主体で進めています。
現場に根差した取り組みが実現し、一過性ではなく継続的な改善体制としています。

■ キャリア支援の視点から考える、制度の“真の価値”
女性の健康課題への理解と対応は、離職防止や人材定着の観点からも、いまやキャリア支援の要です。制度があっても、それを“安心して使える”職場でなければ、支援にはなりません。
今回ご紹介した事例から学べるのは、
- 経営層の関与
- 社員の声を起点とした制度設計
- 使いやすさ・話しやすさを前提とした文化の構築
つまり、支援とは「特別扱い」ではなく、「誰もが働き続けられる環境整備」なのです。
制度・仕組み・対話──すべてが連動することで、はじめて人が活きる健康経営が実現されます。